業界研究~「鉄道業界」の動向や経営状況を調べてみた

業界研究

皆さんの移動手段は何ですか?

僕は田舎暮らしということもあり、自動車オンリーですが、都会では、電車や地下鉄・バスなどの公共機関を利用されている方が多いと思います。

当然、住んでいる地域や自分の生活スタイルなんかで移動手段は変わってきますよね。

でも、いちばん使われている乗り物っていったい何なんですかね。

そこで、運輸総合研究所さんの資料で「主要国の輸送機関別シェア」を調べてみました。
欧米では道路(自動車・バス)が多く、鉄道はどちらかというとマイナーな存在ということです。


たしかに自動車は納得ですね。じゃあ日本は?

日本では鉄道が断トツで利用されています。なんと全体の約4分の3を占めているんです

自動車といい勝負かなと思っていましたが、正直ここまで鉄道のシェアが高いとは思いませんでした。

新型コロナウィルスで多くの業界がダメージを受けていますが、鉄道業界も観光業の一翼を担っているので、きっと大ダメージを受けていることでしょう。

という訳で今回は、そんな「日本人の足」とも言える鉄道業界について調べてみました。

鉄道の業界研究記事をアップしました👇

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鉄道業界

[業界規模]
鉄道の業界規模ですが、売上高で見てみると、主要企業45社の2019年度売上高の合計で15兆6,886億円となります。

利用者数でみてみると、JR全体が95億300万人、私鉄が156億8,700万人で、合計251億9,000万人(交通省:「鉄道輸送統計年報」)が利用しています。

鉄道業界のトップ3を占めるのは、JR東日本、JR東海、JR西日本の「JR本州3社」です。
鉄道各社は不動産や駅周辺開発など、さまざまな事業で収益を上げているのですが、JR本州3社と私鉄の東京メトロは鉄道事業の売上が高くJRは新幹線収入が鉄道業績を上げている傾向があります。

[鉄道業界全体の動向]
コロナ禍が始まるまでは、JR・私鉄ともに利用者数はほぼ横ばいで堅調に推移してきており、相次ぐ都市再開発や利便性の向上により、定期券利用の通勤客の増加、訪日外国人の利用増などで、定期券以外の需要も伸びていました。

また、近年の鉄道会社は、不動産・流通・運輸・レジャーやリゾートといった、非鉄道事業にも力を入れており、特に私鉄の非鉄道事業の強化がJRよりも目立っている状況です。

その他にも、ライバル企業と組んで地域開発を行ったり、第6次産業の支援、サブスクリプション型サービスなど、経営の多角化が進んでいます。

しかし、2019年までは好調を維持してきた鉄道業界ですが、新型コロナウイルスの影響で状況が一転しました。

それでは、JRと私鉄ごとに見てみましょう。

用語のおさらい

各鉄道会社の業績を見る前に、用語の意味を簡単におさらいしてみましょう

用語説明補足
売上高
(営業収益、経常収益とも呼ぶ)
企業の規模を表す。
1年間に商品やサービスを売った
総代金
利益(営業利益)+費用(販管費+売上原価)

企業の売上高から費用を差し引いたものを利益と言い、利益にはさまざまな種類があります。

[費用]

用語説明補足
販管費(販売費・一般管理費)本業の商品やサービスを売る為の費用家賃・人件費・広告費・研究開発費など
売上原価生産や仕入れなど、本業の商品やサービスを作るのに必要な費用材料購入費・工場維持費・現場人件費など

[利益]

用語説明補足
営業利益本業で稼いだ利益売上高費用(販管費+売上原価)
経常利益「銀行への利息の支払い」や「配当金の受け取り」など、
本業以外から生じる損益を営業利益に加減したもの
営業利益から「銀行への利息支払い」などを引いた(足す)もの
純利益1年間の仕事で稼ぎ、手元に残った利益
「株主への配当の支払い」や内部留保として

「翌期に積み残し」をします。
経常利益から「工場の売却」や「リストラ費用」「税金の支払い」などを引いた(足す)もの。

JR

JR7社(JR旅客6社+JR貨物1社)を見てみよう[2020年3月期]

JR7社の運輸収入の合計は4兆4,330億円。
インバウンドや出張・外出が期待できず、コロナ禍の影響が大きい。

[JR本州3社]JRのビッグ3

東日本旅客鉄道(JR東日本)

売上高2兆9,466億円は鉄道業界トップ。
山手線を含め都心中心に収入源となる黒字路線を多く抱えている。
不動産や小売りでも強い存在感がある。
規模(売上高・社員数・営業キロ・社員数など)が一番大きい。
インドで鉄道事業を展開している。

売上高2兆9,466億円
営業利益3,808億円
自己資本比率36.9%
車両数1万2,846両
駅数1,657駅
営業キロ7,401㎞
社員数7万1,812人

[売上高(2兆9,466億円)の内訳]
運輸:19,945、流通・サービス5,020、不動産・ホテル3,485、その他1,015

[平均年収・年齢・初任給(大卒総合職)]
719万円・38.8歳・22.5万円

東海旅客鉄道(JR東海)

新幹線の収入比率が高く、運輸収入の利益率が高い。
JRループの中では新幹線の売上高が突出。東海道新幹線(東京~大阪)が収益の柱。
新型新幹線「N700S」を開発。
米国でリニア新幹線を展開している。
2027年のリニア中央新幹線開業は遅延か。

売上高1兆8,446億円
営業利益6,561億円
自己資本比率39.9%
車両数4,828両
駅数405駅
営業キロ1,970㎞
社員数2万9,603人

[売上高(1兆8,446億円)の内訳]
運輸:14,190、流通2,501、不動産474、その他1,280

[平均年収・年齢・初任給(大卒総合職)]
736万円・36.7歳・23.7万円

西日本旅客鉄道(JR西日本)

山陽と北陸新幹線が鉄道事業収益の柱。
経営の多角化に積極的。
新特急列車の「ウエストエクスプレス銀河」を開発。

売上高1兆5,082億円
営業利益1,606億円
自己資本比率34.1%
車両数6,441両
駅数1,174駅
営業キロ4,903㎞
社員数4万8,323人

[売上高(1兆5,082億円)の内訳]
運輸:9,334、流通2,260、不動産1,651、その他1,836

[平均年収・年齢・初任給(大卒総合職)]
662万円・39.0歳・20.8万円

[JR3島会社]

九州旅客鉄道(JR九州)

2016年度に上場。
多角化が先行しており、運輸では観光列車の「ななつ星」が人気。

売上高4,326億円
営業利益494億円
自己資本比率49.9%
車両数1,665両
駅数568駅
営業キロ2,273㎞
社員数1万7,450人

[売上高(4,326億円)の内訳]
運輸:1,662、建設375,駅ビル・不動産864、流通・外食1,043、その他379

[平均年収・年齢・初任給(大卒総合職)]
558万円・38.3歳・20.1万円

北海道旅客鉄道(JR北海道)

2030年度には北海道新幹線が開業予定(2016年に一部開業)。
経営改革途上。

売上高1,672億円
営業利益▲426億円
自己資本比率64.3%
車両数991両
駅数390駅
営業キロ2,488㎞
社員数6,429人

[売上高(1,672億円)の内訳]
運輸:897、小売業342、不動産賃貸262、ホテル81、その他88

四国旅客鉄道(JR四国)

四国最大の公共交通。

売上高489億円
営業利益▲120億円
自己資本比率57.1%
車両数434両
駅数260駅
営業キロ855㎞
社員数2,149人

[売上高(489億円)の内訳]
運輸:297、物販・販売80、建設122、ホテル64、不動産17、その他76

[貨物]

日本貨物鉄道(JR貨物)

北海道から九州まで全国に貨物を運ぶ。
16年度に悲願の鉄道黒字化。

売上高1,989億円
営業利益100億円
自己資本比率23.1%
車両数9,684両
駅数241駅
営業キロ7,959㎞
社員数5,402人

JRの動向

外出自粛の影響で2020年4~5月の鉄道利用者は激減し、非常事態宣言下でも激減しました。
宣言解除後もテレワークや出張や外出の自粛などが続き、通勤客を中心に少しずつ利用者が戻りつつあるものの、利用者数はコロナ前の水準には全く回復していない状況です。

なんといっても、近年の鉄道業界の成長を支えてきたインバウンド需要が無くなったことが大きな痛手となっています。

テレワークについての記事もあるので興味がある方はぜひご覧ください👇

[本州3社と3島会社の収入格差がさらに拡大しています]
JR東日本は売上高2兆9,466円と鉄道業界トップで、山手線など都心を中心に収入源となる路線を多く抱えています。
JR東海も売上高が1兆8,446億円で、新幹線の売上高が突出しています。
JR西日本は路線のエリアが広域なうえ、さらに北陸新幹線の需要も伸びたことで、売上高が1兆5,082億円で鉄道業界3位となっています。

いっぽうJR3島会社(九州・北海道・四国)は、JR本州3社と比べて、もともと鉄道事業の基盤が弱く(通勤需要が小さい、人口減少など)、利用者減などによる経営悪化が続いていましたが、そこに新型コロナの影響を大きく受けました。

[経営の多角化を進めている]
JR各社は経営の多角化を進めており、鉄道事業以外にも、流通やホテルなどの非鉄道事業を展開しています。
しかし、こうした非鉄道事業も新型コロナの影響を大きく受け、業績の悪化に拍車をかけている状況です。

[設備投資]
設備投資に関しては、JR東日本は品川再開発プロジェクトなど見直す予定はないとしていますが、JR西日本は見直す方針を発表しています。JR東海は静岡県との対立はあるものの、リニア中央新幹線への投資は継続していくとのことです。

[近況]
2020年10月~年末まで実施された東京都を含む全都道府県対象のGoToトラベルキャンペーンにより、2020年度第3四半期(10~12月)の3カ月損益が、JR東海JR九州営業黒字を計上しました。長距離線にも一定程度の客足が戻ってはいるようです。


JRの2021年3月期通期は営業赤字が見込まれていますが、各社とも確実に回復傾向にあるので、来2022年3月期は営業黒字へ転換すると予想されています

私鉄

大手私鉄15社を見てみよう[2020年3月期]

大手私鉄15社の連結売上高の合計は8兆1,406億円。
テレワークの普及で通勤利用が以前のレベルに戻らない可能性あり。
観光需要の回復のめどが立たず不安。

下記の表中に出てくる「輸送人キロ」とは、輸送量の単位です。運んだ旅客数(人)にそれぞれの乗車した距離(キロ)を乗じたものの累積です。交通機関の輸送の規模を示す重要な指標です。
3人の旅客を10㎞輸送した場合は3人×10㎞=30人キロとなります。

[関東大手9社]

東京地下鉄(東京メトロ)

都心の地下鉄を運営。
営業利益は関東私鉄で1位。
政府と東京都が大株主で上場を目指している。

売上高4,331億円
営業利益839億円
総営業距離195㎞
旅客輸送人キロ22,187
売上高に占める鉄軌道事業の割合88%

東武鉄道

営業距離は私鉄で2位、関東では最長。
スカイツリー推しており、ホテルや観光列車を強化中。

売上高6,538億円
営業利益626億円
総営業距離463㎞
旅客輸送人キロ12,630
売上高に占める鉄軌道事業の割合25%

小田急電鉄

新宿拠点に路線は神奈川、箱根方面結ぶ。
復々線化で利便性が向上。

売上高5,341億円
営業利益411億円
総営業距離120㎞
旅客輸送人キロ11,901
売上高に占める鉄軌道事業の割合23%

東急

ブランド力が強く、グループが強大。
東京急行電鉄から2019年現在の社名になり、鉄軌道事業を分社化した。

売上高1兆1,642億円
営業利益687億円
総営業距離104㎞
旅客輸送人キロ11,309
売上高に占める鉄軌道事業の割合13%

西武ホールディングス

傘下に西武鉄道やプリンスホテルなどがある。
2014年に株式再上場した。

売上高5,545億円
営業利益568億円
総営業距離176㎞
旅客輸送人キロ8,937
売上高に占める鉄軌道事業の割合19%

京王電鉄

新宿(東京)と多摩(八王子)を結ぶ路線が主体。
安定した収益力。

売上高4,336億円
営業利益360億円
総営業距離84㎞
旅客輸送人キロ7,962
売上高に占める鉄軌道事業の割合20%

京浜急行電鉄

京浜、三浦半島が地盤。
羽田空港へのアクセスが強みで、国際線拡張が追い風となっている。

売上高3,127億円
営業利益294億円
総営業距離87㎞
旅客輸送人キロ6,591
売上高に占める鉄軌道事業の割合27%

京成電鉄

成田空港アクセス路線が強み。
オリエンタルランドの筆頭株主。

売上高2,747億円
営業利益283億円
総営業距離152㎞
旅客輸送人キロ4,202
売上高に占める鉄軌道事業の割合25%

相鉄ホールディングス

神奈川が地盤。
2019年11月にJRとの相互直通開始で悲願の都心乗り入れ。
ホテル事業に力を入れている。

売上高2,651億円
営業利益264億円
総営業距離35㎞
旅客輸送人キロ2,592
売上高に占める鉄軌道事業の割合13%

城などのおすすめスポットの記事もありますので興味がある方はぜひどうぞ👇

[関西大手4社]

阪急阪神ホールディングス 

傘下に阪急電鉄、阪神電鉄などがある。
大阪~神戸間が中心で、収益力高い。
梅田地区など大阪駅前の再開発を推進している。

売上高7,626億円
営業利益951億円
総営業距離192㎞
旅客輸送人キロ11,539
売上高に占める鉄軌道事業の割合18%

近鉄グループホールディングス

大阪近郊から名古屋までをカバーし、営業距離は私鉄最長。
阿倍野橋に「あべのハルカス」を建設。
2015年にホールディングス化した。

売上高1兆1,942億円
営業利益493億円
総営業距離501㎞
旅客輸送人キロ10,801
売上高に占める鉄軌道事業の割合13%

京阪ホールディングス

路線は大阪~京都間が中心。
2008年に中之島新線が開通し、中之島地区の再開発を推進している。

売上高3,171億円
営業利益311億円
総営業距離91㎞
旅客輸送人キロ4,186
売上高に占める鉄軌道事業の割合17%

南海電気鉄道

大阪南部、和歌山が地盤で、関空アクセスが強み。
本拠のなんばを再開発し、集客力を強化している。

売上高2,280億円
営業利益352億円
総営業距離154㎞
旅客輸送人キロ3,976
売上高に占める鉄軌道事業の割合27%

[地方大手2社]

名古屋鉄道

愛知が地盤で総営業距離は私鉄3位。
リニア開業に備え名鉄名古屋駅前の再開発を推進している。

売上高6,229億円
営業利益473億円
総営業距離444㎞
旅客輸送人キロ7,245
売上高に占める鉄軌道事業の割合15%

西日本鉄道

九州北部の鉄道路線。
主力は車両数全国首位級のバス事業で、国際物流にも強い。

売上高3,894億円
営業利益164億円
総営業距離106㎞
旅客輸送人キロ1,578
売上高に占める鉄軌道事業の割合6%

※総営業距離、旅客輸送人キロはいずれも親会社の数字。持ち株会社の場合は主力の鉄道会社の数値。旅客輸送人キロの単位は100万人キロ、期間は2018年度。

私鉄の動向

大手私鉄15社は、雇用の改善や訪日客の増加を受け2012年度から右肩上がりが続いていましたが、2019年度は新型コロナの影響でブレーキがかかり、現在も厳しい状況が続いています。

[傾向]
私鉄トップは近鉄グループHDで売上高1兆1,942億円、2位が東急で売上高1兆1,642億円です。
私鉄各社の鉄道事業の売上高は6~27%と低く、どちらかというと非鉄道事業をメインとして稼いでいます。

ただし、路線が都市部中心の東京メトロだけは、鉄道事業の売上が非常に大きく、全体の88%を占めています。

近年の私鉄各社の取り組みとしては、客単価引き上げを狙った有料サービスを広げています。
通勤ラッシュで悩む利用者のニーズに応えるために、主に東武鉄道や西武HD、京王電鉄、京成電鉄などが「通勤時座席指定列車」を導入しています。

[多角化と非鉄道事業]
不動産事業では、東急が不動産開発に力を入れるため、19年10月に本体に不動産事業を残して鉄軌道事業を分社化しました。
京阪や西鉄なども首都圏でマンション販売を強化しています。

ホテル事業では、西武ホールディングスのプリンスホテルや東急ホテルズをはじめ、相鉄ホールディングスや京急などが宿泊特化型ホテルを積極的に展開しています。
しかし、ホテルは鉄道事業以上にコロナ禍がのダメージが出ています。

[近況]
コロナ禍で乗降客数が激減していましたが、2020年10月から年末まで、全都道府県対象のGoToトラベルキャンペーンが実施され、長距離線にも一定程度の客足が戻ったようです。

2020年度第3四半期累計(4月~12月)で営業黒字を確保したのは、西日本で事業展開する南海電鉄、神戸電鉄、山陽電鉄、京阪ホールディングスの4社のみでした。
4社ともに鉄道事業の赤字幅が小さくなったのと同時に、採算性の高い不動産事業が利益を下支えちなみに、各会社が発表する業績予想で、今2021年3月期通期(2020年4月~2021年3月)の営業黒字見込みは、南海電鉄、神戸電鉄、山陽電鉄の3社のみです。


2021年3月12日現在、緊急事態宣言の再々延長を検討中です。
政府や地方自治体もテレワーク推進支援策を拡充しつつあり、鉄道業界にとっては業績回復への道程は多難になりそうな状況がつづいています。
沿線の価値を改善し、鉄道の利便性や利用率を高めるために、鉄道事業のみならずあらゆる業種との連携が増え、今後もさらなる多角化が進んでいくのではないでしょうか。

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