業界研究「病院」~コロナ禍の今、病院業界の動向や経営状況を調べてみた

業界研究
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病院業界とは

病院業界の規模は、病院数8,372院 、医療費42.6兆円

病院数:厚生労働省「医療施設調査」
医療費:厚生労働省「平成30年度医療費の動向」

病院業界の全体像はどんな感じ?

病院を運営主体で分類すると、「国公立・公的病院」と「民間病院」の2つに分かれます。

さらに、それぞれ次のように分類されます。
国公立・公的病院

  • 国公立
  • 社会保険関連病院
  • 自治体病院
  • 公的病院

民間病院

  • 医療法人
  • 私立学校法人
  • 社会福祉法人


図が見にくい方は下記👇からダウンロードしてご覧ください。

ざっと、この図のように分けられます。

図中の各病院の情報については、後の「病院グループの経営状況」で記述しております。

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病院の数は、「民間病院」が7割、「国公立・公的病院」が3割

病院の数としては、民間病院医療法人個人が運営しており、全病院の7割(69%)を占めています。

次に多いのが自治体病院で、全病院の1割(11%)を占めている状況です。
そのうち7割ほどを市町村立病院が占めています。

[運営主体別の病院数の割合](%)
民間69
自治体11
4
公的3
その他13
出所:2018年「医療施設調査」

病院の経営状況は苦しい


社会保障費抑制の流れを受け、医療サービス価格(診療報酬)は伸びず、医療法人の約3割が赤字です。

自治体病院については、一般財政からの繰入金を含めなければ、約9割が赤字に陥っています。

医療の高度化診療報酬の減額によって長期入院は避けられ、入院患者が減少している状況なのです。

そもそも、病院の収支はどのような感じなのでしょうか。

1病院あたりの収支は次の表のような内訳です。

医業収入(%)
入院67
外来28
室料差額・その他5
医業費用(支出)(%)
給与費51
材料費25
設備関係費9
委託費7
経費6
その他2
出所:全日本病院協会「2019年度病院経営定期調査報告」

病院収入の7割は入院、病院支出の5割は人件費

病院の収入は6~7割を入院患者、3割程度を外来患者が占めています。

医療行為の価格は診療報酬制度で定められているため、自由に上げ下げできません。
収入を増やすには、病床を効率よく稼働させるしかないのです。

一方、支出の約半分は人件費が占めていました。

さきほども記述しましたが、この7割の収入を占める入院患者が減少しているので、病院の経営状況はもともと苦しい状況にあります。

そして、患者の減少により受給ギャップが開き、病院間の競争が一段と激化しています。

厚生労働省の「医療施設調査」によると、病院の数は、2000年の9200超から2018年には8400弱へと減り続けています。(ただし、日本の病院数を国際的に見ると、人口1000人当たりの病床数がOECD諸国の中で最多と多い状況)

国は病院の役割分担や機能転換を進める地域医療構想を自治体に促してきました。

地域医療構想・・・団塊の世代が75歳以上になる2025年の医療ニーズを国が推計し、地域ごとに必要な病床数や機能の役割分担を構築する政策。人口減少が進む地域では高齢者数も減少し、医療ニーズは縮小すると予想される。


しかし、国が描いてきた病院再編のシナリオの中で想定外だったのが、新型コロナウイルスの流行拡大です。

新型コロナの流行で各地域の病院再編にブレーキがかかると予想されますが、患者の減少に耐えきれない病院は、経営危機に追い込まれる可能性があります。

救急医療への特化や地域医療機関とのネットワークを構築するなどの経営改革で赤字を脱却した長野県の相澤病院や、救急を断らない方針で高収益を上げる湘南鎌倉総合病院など、病院も色々な努力をしています。

病院グループの経営状況

それでは、いちばん最初の図(病院グループ関係図)にもとづいて、もう少し詳細な情報を見てみましょう

国公立・公的病院

全病院の約3割がこの国公立・公的病院にあたります。
そして、その内訳としては、国公立、社会保険関連病院、自治体病院、公的病院に分類されます。

平均年収:公立病院勤務医1,513万円/公立病院看護師559万円

国公立

国公立大学病院

医学教育と研究を担い、高度医療の中心的な病院です。

病院数47
病床数3万2666
売上高1兆1457億円
大学病院売上高
横浜市立大学537億円
東京大学495億円
九州大学483億円

国立病院機構

高度医療を行う急性期の総合病院で、研究や調査、医療従事者の育成も担っています。
職員の数は約6万2,000人です。

病院数141
病床数5万3,541
売上高9,674億円
病院売上高
東京医療センター232億円
神戸医療センター78億円

労災病院

労働者健康安全機構が運営している病院で、13病院が災害拠点病院に指定されています。

病院数33
病床数1万2,465
売上高2,900億円
病院売上高
関東労災病院186億円
九州労災病院119億円

地域医療機能推進機構(JCHO)

全国社会保険協会連合会などが管轄していた社会保険病院を継承するために、2014年に設立されました。研究や医療従事者の研修事業も担っています。

病院数57
病床数1万5,890
売上高3,523億円
病院売上高
東京新宿メディカルセンター122億円
中京病院199億円

社会保険関連病院

社会保険関連病院

企業の健康保険組合や共済組合などが運営している病院です。

病院数52
病床数1万5,636
売上高― 
  • SUBARU健康保険組合太田記念病院
  • 名鉄病院 など

自治体病院

全病院の1割(11%)を占めている自治体病院を見てみましょう。

都道府県立病院

自治体病院の約2割を占めています。
都道府県が指定管理者に運営を委託することもあります。

病院数199
病床数5万3,209
売上高9,882億円
病院売上高
都立駒込病院259億円
都立広尾病院110億円
千葉県がんセンター109億円

市町村立病院

自治体病院の約7割を占めています。
特に町立や村立は僻地(へきち)医療の拠点になっています。

病院数618
病床数12万7,951
売上高1兆7,681億円
病院売上高
小牧市民病院190億円
藤沢市民病院177億円

地方独立行政法人

自治体病院の約1割を占めています。
病院再編に伴い、都道府県立や市町村立から独立行政法人化されます。

病院数103
病床数4万0,519
売上高― 
病院売上高
神奈川県立病院464億円
佐世保市総合医療センター163億円

トリートメントの記事もありますので興味がある方はぜひご覧ください👇

公的病院

赤十字病院

日本赤十字社が運営する病院で、災害時には医療従事者を派遣しています。
地域の中核病院として僻地(へきち)医療を担っています。

病院数92
病床数3万5,612
売上高1兆0,190億円
  • 日本赤十字社医療センター(東京)
  • 大阪赤十字病院 など

済生会病院

社会福祉法人恩腸財団済生会が運営している病院です。
生活困窮者の支援として無料定額診療を行っています。

病院数85
病床数2万2,885
売上高5,885億円
  • 東京都済生会中央病院
  • 大阪府済生会吹田病院 など

JA厚生連病院

厚生農業協同組合連合会(JA厚生連)が運営している病院です。
約4割が人口5万人未満の地域に立地しており、農村地域の医療確保に貢献しています。

病院数103
病床数3万2,775
売上高7,473億円
  • 総合病院土浦協同病院
  • 佐久総合病院 佐久医療センター

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民間病院

全病院の約7割(69%)がこの民間病院にあたります。
その内訳としては、医療法人や学校法人、社会福祉法人、個人などが運営する病院に分類されます。

平均年収:民間病院勤務医1,640万円/民間病院看護師454万円

医療法人

徳洲会グループ

創設者の徳田虎雄氏が全国に展開する国内最大のグループです。
離島や僻地(へきち)の医療に力を入れています。

病院数71
病床数1万7,589
病院売上高
徳洲会売上高1位2,272億円
沖縄徳洲会1,207億円
  • 千葉西総合病院
  • 湘南鎌倉総合病院 など

湘南鎌倉総合病院は、新型コロナウイルスの中等症患者を受け入れる神奈川県の重点医療機関に指定され、救急を断らない方針で高い収益率も維持しています

中央医科グループ(中村3兄弟が経営)
板橋中央医科グループ、上尾中央医科グループ、戸田中央医科グループは同族経営で、緩い連合体になっています。

板橋中央医科グループ

1980年代から急拡大し、職員数は2万4,000人。

病院数36
病床数9,575
病院売上高
明理会891億円
明芳会821億円
  • 板橋中央総合病院 など

上尾中央医科グループ

一般社団法人AMG協議会が上尾中央総合病院を中心に1都6県で展開しています。

病院数27
病床数6,098
病院売上高
愛友会673億円
協友会553億円
  • 上尾中央総合病院 など

戸田中央医科グループ

一般社団法人TMG本部が戸田中央総合病院を中心に1都4県で展開しています。

病院数29
病床数4,911
病院売上高
東光会329億円
武蔵野会220億円
  • 戸田中央総合病院 など

葵会グループ

各地の医療法人を傘下に加えて拡大しています。

病院数24
病床数4,722
病院売上高
葵会428億円
  • 千葉・柏リハビリテーション病院 など

カマチグループ

九州と関東で回復期病床を中心に拡大しています。

病院数22
病床数4,077
病院売上高
池友会379億円
  • 福岡和白病院 など

平成医療福祉グループ

回復期・慢性期に強く、買収に積極的です。

病院数24
病床数3,797
  • 博愛記念病院 など

大坪グループ

福岡の医療法人を傘下におさめ拡大しています。

病院数18
病床数3,368
  • 三軒茶屋病院 など

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私立学校法人

慶応大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学は歴史が古く、私立医学部の御三家と呼ばれています。

病院数112
病床数5万5,623
病院売上高
順天堂大学1,468億円
東京慈恵会医科大学971億円
昭和大学952億円

社会福祉法人

特別養護老人ホームや訪問介護事業など介護系の施設も運営することが多いです。

病院数201
病床数3万4,306
病院売上高
聖隷福祉事業団866億円
三井記念病院184億円

(注)売上高は医業による収益。都道府県立と市町村立の売上は地方公営企業法を適用する病院事業が対象。
(出所)

  • 公立・公的病院の病院数と病床数は厚生労働省「平成30年医療施設調査」
  • 自治体病院の売上高は総務省「平成30年度地方公営企業決算の概要」
  • 医療法人の売上高はネオステージ(2017年度)
  • その他、各法人の決算資料

最後に

2020年3月から5月にかけての感染拡大から始まり、感染患者を受け入れた病院は感染防止対策を講じた結果、外来患者や入院患者が減少しました。
また、患者を受け入れていない病院も、感染を恐れた患者が受診を控え、とくに外来患者数が減少傾向にあります。

2021年3月15日現在もまだ、首都圏4都県には緊急事態宣言が出ており、従来のウイルスより感染力が強いとされる変異株も拡大している状況下にある為、新型コロナウイルスが招いた病院業界の混乱は、まだまだ長期化しそうな状況です。


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